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経済学は、お金のことを扱う学問であると同時に、そのお金を使う「人」のことを扱う学問でもあるらしい。「お金って何なんでしたっけ?」から連載を開始した「エンジニアに最適化した経済学」、今回は「私たち人間って、経済学的にはどんなものなんですか?」をインストール。
(文/平林純 総研スタッフ/根村かやの)作成日:06.09.13 |
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今回は、『行動経済学 経済は「感情」で動いている』の著者であり、行動経済学を研究されている明治大学情報コミュニケーション学部の友野典男教授に「経済学で“人”はどのように取り扱われているか」ということについて聞いてみました。
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友野典男
明治大学情報コミュニケーション学部教授。専攻は行動経済学、ミクロ経済学。「経済行動に及ぼす心理的・社会的・生物的要因の理論的・実証的研究」を近年のテーマとしている。 |
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これまで 松原隆一郎先生・ 小島寛之先生に経済学を教えていただいた中で、繰り返し「合理的に考えるのが経済学の中の人間だ」と言われたのです。その言葉を聞くたび、経済学の中の人間ってなんだろう?と不思議に思っていました。 |
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標準的経済学では、人は“合理的、かつ、私益追求”という存在です。論理も間違えないし、もちろん、計算間違いもしない。“自分の満足を最大にする選択肢を何の間違いもせずに選ぶことができる人”です。
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地球上にいる人は全員頭がよくて、テストがあれば全員が100点満点ということでしょうか?(図1) |
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| 標準的な経済学の世界では、地球上にいる人はすべて「論理的にも計算間違いもせずに、自分の利益追求ができる人」ばかり。テストで百点満点をとれないような人は、地球上にはいない!? |
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非常に単純に言えばそうですね。“論理も確率計算も絶対間違えない人”ですから。 |
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テストの成績からみればもちろんのこと(笑)……毎日の行動からみても、自分とはほど遠い感じですね。 |
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ええ、例えばBSE(牛海綿状脳症)の問題を考えてみれば、超合理的な人ならみんな平気で焼き肉やステーキを食べてると思うんですよね。だって、ビーフステーキ食ってBSEで死ぬ確率って、交通事故で100回死ぬぐらいの、ほとんど無視できる確率ですから。 |
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確率の何が難しいって、やはり感覚と違うところですよね。 |
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人の感覚の特徴に“少数のデータで全体を判断してしまう”というものがあります。“少数の法則”というのですが、“ほんのいくつか試みただけで、すぐ一般的傾向を引き出してしまう”癖・バイアスです。 |
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自分の少ない、あるいは、持ち合わせていない“経験”で、全体を判断してしまうわけですか……。うーん、非常にありがちですねぇ。 |
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確率の問題でいう“理論的確率”って、論理的には無限回の試行を繰り返したときの発生率で、それを“大数の法則”というんですね。けれど、普通はそんな“大数の法則”が働くほど多くのサンプル・経験を人は持ち合わせていないわけです。だから、合理的な“確率”って、やはり人間の自然な発想からは非常に遠いんじゃないか、と思いますね。 |
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なるほど……。“少数の経験”に基づく経験則で私たちは動きがち、というわけでしょうか? |
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そうですね。そんな経験則や、あるいは目安といったものを、人はあらゆる判断の場面で使ってるんじゃないかと思います。実際問題、“ありとあらゆる選択肢を考えたうえで、その中から最適なものを選び出す”なんて不可能ですからね。 |
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“少数の経験”に基づく経験則でも、限られた情報・時間の中で、素早く判断するには、結構役に立つ、というわけですか。 |
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例えば、晩婚化なんか、その“選択肢が多すぎる”問題の一例のような気がするんですよ。交際相手がどんどん広がって、配偶者に対する選択肢がものすごく多くなっている中で、将来の不確実なことも考慮して結婚生活がもたらすメリットとデメリットを全部計算して選ぶ……なんて、難しいですよね。それで決められなくて、結婚に踏み切れないでいるのが、晩婚化の原因のひとつじゃないかと思ってます。
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なんか女性は相手のメリット・デメリットを瞬時に計算していそうな気が……。 |
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それ、すごく少ないサンプル数の女性から判断してません? |
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そうそう、“女性というものは〜”って言っておきながら、実は自分の嫁さんの話だけだったりする人がよくいるんです。まさに“少数の法則”ですね(笑)。 |
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就職なんかでも“入れる会社の選択肢”が多いと、逆になかなか選べなかったりしそうですね。 |
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なかなか選べないし、十分に納得して選ぶことができるわけじゃないから、不満が残るんですよね。ほかにもっといい選択があったんじゃないかって(図2)。
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| 選択肢があまりに多いと、どれを選べばいいのかわからなくなってしまう。あまりに多く枝分かれしている道のようなもの。一体、どっちに行ったらいいのだろう……? |
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会社に入っても、ほかのほうがよかったんじゃないかと考えて、すぐ辞めちゃいそうですね。 |
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かといって、就職したら最後、転職という選択肢はなくて、年功賃金なので就職したとたん定年までの所得が計算できちゃう、というのも今ひとつなんですよね、きっと。 |
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そう、選択肢が多くても困るけど、選択肢がまったくないのもよろしくない。選択肢があんまり少ないと、選ばされてるって感じになるし、選択肢があんまり多すぎると、全部見ないで選んで、ほかにもっといい選択があるんじゃないかっていう後悔が残っちゃう。適度な少数の選択肢から自分で選べるというのが、満足感が大きいんじゃないかと思います。 |
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結婚相手としての対象が多すぎて、将来に関する不確実性が大きすぎると、結婚する・しないを計算できないわけですよね。じゃあ、どうやって結論を出すかっていうと、これがとても簡単なんですけれど、愛情を感じた相手と結婚するわけです。つまり、“愛情”というのは、結婚相手を決める手っ取り早い直感なんですよ。 |
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ということは、明らかにメリットやデメリットが計算できるような合理人だったら、愛情の出番はないのかもしれないんでしょうか? |
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経済学のそもそもの目的は、満足や幸せについて追究することだったと思うんです。それが、いつの間にか、所得が多いほうが満足度が高い、つまり、お金持ちのほうが満足が大きいし、満足が大きければ幸せだろう、となってしまったわけです。
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私が研究している行動経済学では、幸せというものに影響がありそうなもの、例えば、所得だけじゃなくて、人の性格とか年齢・既婚未婚・子どもの有無や仕事といった社会的環境と“幸福感”の関係の調査などをしています。その結果、単純に所得が高ければ幸福度が高いというわけでもないということが、わかってます。
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結婚して家庭があったほうが幸福度が高かったり、友人とか同僚とか趣味の仲間といった社会的な絆や、仕事のやりがい・面白さなども“幸福”と相関がありますね。 |
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社会的な絆や仕事の面白さに恵まれていると幸せだというのは納得できます。ただ、それを一体どうしたら手に入れられるんだろう、って思うと考え込んじゃいますね……。 |
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| ※「エンジニアのための経済学最適インストール
」が本になりました。 |
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お金をたくさん持っている人が幸せですか?を読んだあなたにオススメします
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| 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ |
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| 「エンジニアの身の回りに女性が“少数”しかいない」ことを平林さんは懸念していますが、今回は「少ない選択肢から自分で選ぶと満足感が高い」こともわかったのでした。つまり、エンジニアは案外幸せをつかみやすいのかも。経済学って役に立ちますね!
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