


18歳で上京し、23歳で劇団「3○○」を結成。
以来、30年間、演劇の道を歩んできた。
彼女に育てられた人気俳優も多い。
今、若い人たちに伝えたいこととは。

向いている仕事がわからない人は、無人島に行くといい
向いている仕事って、本当は自分で考えなくてはならないことなんです。でも、大人があまりにもひどすぎて、若い人たちが考えられないようにしてしまっているのね。
これを買え、あれを食え。自分の頭で考える前に、ものを与えてしまう。大人はいろんなマスメディアを使ってたくさんの宣伝をしますよね。若い人たちは、「そうか、これを買えばいいんだ」と、何も考えずに買ってしまう。自分の意思で買っているならいいけれど、誰かの勧めで買っている場合がほとんどなんじゃないかしら。小さいころから、自分の頭で考えないで買う習慣ができてしまっているんですね。これが一番の問題です。若い人たちは、大人の餌食にされているんですよ。
もう、無人島にでも行かないと、自分の志向なんてわからないんじゃないかしら。無人島に行くのが難しかったら、1週間くらい、田舎の村で暮らしてみるとかね。知っている人が誰もいない環境に置かれたとき、「自分が何をするか」。それを知ることが大事なんです。
おなかが空いたとき、木を探してきて火を起こし自炊を始める人もいるだろうし、家の明かりを探して「今日ご飯食べさせてもらえませんか」と訪ねて行く人もいるでしょう。歌を歌って空腹をごまかす人もいるかもしれない。
人それぞれ、やりたいことって違うと思うんです。自分が求めているものは何で、どうやって食べていきたいのか、雑音のないところで、一人になって考えてみる。
給料だとか、会社名だとかそういう他人の価値観ではなく、自分がその仕事で食っていきたいと思うか。若い人には、それで判断してほしいんです。
そして一度この仕事をやる、と決めたら、3年は続けること。仕事の面白さって、わかるまでに最低10年かかる。もし10年続けて、やっぱり「この仕事、向かない」と思ったら辞めてもいい。大丈夫、それだけ続けたら、必ず何かを手に入れているはずですから。
私も上司にどなられて、今があるんです
上司や先輩からいじめられたといって辞める人が多いけど、そのくらいで辞めるなんて、もったいないですよ。そもそも上司は、部下によかれと思って叱っているだけで、いじめてなんていない場合が多いんじゃないかしら。
私の若いころにも怖い演出家や先輩俳優っていましたよ。もう、怖くて怖くて震え上がるくらい。でも、それはいい作品を作りたいから、私に良かれと思ってやってくれたことなのね。だから、いじめられてるなんて思わなかった。
一番最初に出たドラマは『おしん』だったんですが、その次のドラマは大変でした。演出家の久世(光彦)さんがスタジオの上からマイクでどなるんです。「渡辺、ばかやろう」って。「お前は劇団でもそんなふうにセリフを言うのか」って怒るから、舞台風にセリフを言うと、「お前、テレビをなめてるのか!声がでか過ぎるんだよ。マイクの意味ないだろ。声を抑えろ、ばかやろう」って。スタジオには100人くらいの人がいて、その前でどなられるんですから、きついですよ。
先日亡くなられた緒形(拳)さんも厳しかったけど、大切なことを教えてくださった先輩です。私は根が真面目なんですが、何でも正直にすぐに顔に出てしまうんです。それで徹夜明けで眠い顔をして「おはようございます」とあいさつしていたら、強く注意されて。
当時は、私の主宰劇団「3○○」がすごく人気があって、私自身もあちこちから引っ張りだこだった時期でした。それで「こいつ、ちやほやされていい気になっているな」と思われたんでしょうね。「映像をなめるな」って、一喝されました。
その後、緒形さんにひっぱられて一緒に走るシーンの撮影があったんですが、真剣にものすごい力でひっぱられるものだから、何度も道に倒れて、両膝血だらけになっちゃって。それでも私も真剣に撮影を続けたんです。そうしたら、「こいつ真面目な努力家なんだ」と、やっと気づいていただけた。それからは親切に接していただけるようになったんです。
そのときの経験から、「どんな仕事も死ぬ気でやろう」と思うようになりました。もちろん、なめてるつもりは全然なかったけど、まだ足りなかったんですね。
若い人に伝えたいのはここなんです。どんな仕事でも、死ぬ気でやってほしいの。本当に死んじゃダメよ。死ぬ3歩手前くらいで(笑)。そうすると仕事の面白さが見えてくるんです。
久世さんも緒形さんも、厳しかったけど仕事をしていく上で本当に素晴らしいことを教えてくださいました。今でも役立っていることが、たくさんあるんですよ。
天才でも努力しないと、すぐにダメになっていく
今の時代、ほめて育てるのが主流でしょ。あれ、間違いですね。怒られて怒られて、たまにほめられるから嬉しいんですよ。ずうっとほめられっ放しじゃ、自分の悪いところが全然わからないじゃない。
劇団員でもそうでした。ほめられて育った人は、「自分はこれでいい」って勝手に思っちゃってて、全然伸びないの。伸びる人は謙虚で素直。カイメンが水を吸うように言われたことをきちっと聞いて実行する。伸びない人は、言われたことを自分のいいように解釈したり、できないことを人のせいにしたりする。
何十人もいる劇団員、みんなに同時に同じことを言っているのに、素直に聞いて努力する人と全然努力しない人がいるから不思議よね。
努力する人は伸びます。逆に言うと、天才でも努力しないと、すぐにダメになっていくんです。才能を持った人はたくさんいるけど、努力できる人は、1000人に1人。ですから、一番の才能は「努力できる」ってことなんですよ。
私の周りにいる一流と言われる人たちは、ものすごく努力していますよ。ずっと、稽古、稽古でやってきて、名が知れ渡ってからも、努力、努力です。成果というのは、毎日の蓄積なんです。努力をしなくなったら、すぐに落ちていきますよ。
私も毎日、演劇に関わることをしていますよ。休みなんてありません。芝居の練習もそうだけど、本を読んだり原稿を書いたり。お風呂に入っても新聞を読んでいますしね。


役者への情熱は誰にも負けない。
しかし、「本当にこの仕事でよかったのか」と、
悩んだこともあったという。
それは戦争がきっかけだった。

苦労、苦労の連続で。役者で食べていけるようになったのは35歳から
とにかく戦争には絶対に反対なんです。でもいざ戦争になって人が傷ついたときに、自分は他人に何もしてあげられないなと湾岸戦争のときに思ったんです。何で看護師や医者にならなかったんだろうって悩みました。でもね、自分の仕事も必死にやっていれば、傷ついた人を癒やせるようになるんじゃないか。そう思うようにしたんです。
ギリシアの詩人が、「2斤のパンがあれば、1斤を花に変えよ」という言葉を残しています。花は食べられないけど、美しいと思う気持ちで病気が治ったり、悲しい気持ちが癒やされたりする。それが芸術、演劇だと。私もそう思って、ここまでやってきました。
そもそも役者になりたいと思ったのも、そのためなんです。小学校では声楽クラブ、中学校のときには合唱クラブで部長をしていました。オペラ歌手になりたいと思うくらい歌が好きだったんです。それで、人前で歌うことで、聞いてくれた人に夢や希望を与えられたらどんなにいいかと思っていました。
一方で、踊ることも絵を書くことも好きだった。それで、歌えて踊れて絵も描ける仕事って何だろうと考えた。それが演劇だったんです。劇団では美術の仕事もありますしね。
それで高校卒業と同時に上京したんですが、苦労、苦労の連続でした。役者で食べていけるようになったのは、35歳になってからです。
でも、役者や歌手っていうのは、苦労していたほうがいいんです。今、歌のリバイバルが流行っているでしょ。同じ曲なのに、歌う人が違うだけで、ぜんぜん違うものに聞こえます。その人の苦労や経験が歌を通じてにじみ出てくるのね。明るい歌でも苦労して何かを乗り越えた人が歌うと、なんだか泣けてくる。
歌で人を感動させたいなら、飾らないことが一番。飾らず、生きざまをさらけ出すんです。そうすると、賛同してくれる人が現れる。だから、歌い手は幸せより不幸せのほうがいいのかも。
12月に『My Room』というコンサートを開きます。私は今も十二分に不幸なんで(笑)、絶対にいい歌が歌えると思いますよ。来てくださったどのお客さんより絶対不幸だ、っていう自信がありますからね(笑)。


演劇界屈指の歌唱力といわれるほど、役者だけでなく歌手としても高く評価されている渡辺さん。12月のクリスマスシーズンに青山で開催されるコンサートのタイトルは『My Room』。文字通り"私の部屋"でくつろいで歌とおしゃべりを聞いてもらえるようなコンサートにしたいとか。今回は「来てくださった方、皆さんがご存知の70年代のポップスや洋楽」を中心に歌う。一人で過ごすのはちょっぴり寂しいクリスマス・シーズン。陽気な渡辺さんの歌声と大きな心に包まれて暖かく過ごしてみては。
2008年12月17日〜23日 スパイラルホール(表参道)
構成・演出/鈴木勝秀、企画・製作・問い合わせ/シス・カンパニー(TEL:03−5423−5906)
http://www.siscompany.com
- EDIT/WRITING
- 高嶋千帆子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己




























